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旧石井県令邸へようこそ! 旧石井県令邸公式blog

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在りし日の石井県令邸

私邸は、北上川、中津川の流れによって形成された河成段丘に当たり、洋館は表側から見ると2階建、裏側から見ると3階建に見える。また、旧石井邸・南昌荘・大清水多賀の庭の水は、段丘崖の崖裾に湧出するもので、当時はいずれも相当な量の清冽な水が湧いて、堰をなして遠く鉈屋町裏の旧市立病院の辺りで北上川に流出していた。旧石井邸の庭の一部には、水源に御影石で二段に框取りした自然の井戸があっていろいろと利用していた。大清水多賀、大清水小路そして清水町の名は、これらの湧水に由来するものである。
 正門は上衆小路に面し、裏門は大清水小路に抜ける広大なる屋敷地で、道路から右側に、旧瀬川邸—後の金田一氏邸(現南昌荘、信金土蔵)、裏の南露地に面する太田惣六氏邸(現キンダーホーム敷地)に隣接していた。
 上衆小路の通りから4〜5メートル入った辺りに立派な木造の門があり、門を入れば左右に杉木立があって鬱蒼としていて、昼なお暗いという感じのゆったりした通路(アプローチ)になっていた。通路は建物の近くで急に幅が広くなり、サツマイモを縦に切って伏せたような長い築山があって、これにもヒバやスギが生えていて、子供には島に見えた。知事時代、網張温泉に馬で往き来したというから、これは馬車を廻すための車廻しだったようだ。門のそばには細田さん(洋機織業)という門番の方が住んでいた建物があり、この建物の一番後には厩として使ったのではないかと思われる部屋があった。 
 ツタで被われた3階建ての豪壮な洋館は、母から聞いた話によると、盛岡の監獄に入っていた赤い服を着た囚人たちの手で出来たものだという。
 玄関の所には鐘がぶら下がっていて、紐を引っ張って鳴らしては叱られたものだ。丈の高いトンネルに似た形の入り口を入って石の階段を登ると、ドアがあって、その内側が玄関ホールになっていた。ホールの直ぐ左手にごく小さな部屋があって、そこには大型のオルゴールがあり、いたずらして鳴らすと、いつまでも鳴っていた。大正時代あんな大型のオルゴールを設備したことなど、さすが「お上」もなさるもんだと思った。玄関から入って左手は「お上」の書斎、右側が応接間、突き当たりが食堂になっていた。
 どの部屋も天井は高く、綺麗な縁取り模様のある白い天井で、真ん中あたりからは、すごく立派なシャンデリアがぶら
下がっていた。床はどの部屋も幅の広い寄木造り、各部屋の入口は、子供の丈の2倍以上もあるように見える重々しい感じの扉で仕切ってあり、仕切り壁は、床から1メートルくらいまでは床や扉と同じに見える板で張ってあり、木で出来ている部分は、僅かに底光りする焦茶色の塗料で仕上げてあった。各壁の板張りから上は天井までなにやら古めかしい模様のあるくすんだ色の壁紙が張ってあった。子供の私達には、壁紙の継ぎ目がどこにも見あたらないのが不思議であった。
 母と私は「お上」ご一家と一緒に食堂でご馳走になった事がある。ライスカレー以外に洋食なる物を食べた事がない私には誠に珍しいものだったが、それにもまして印象深かったのは、畳一枚より少し大き目な額が2枚壁にかかっていて、1枚は野菜、1枚はお魚が日本画とも油絵ともつかない不思議な筆法で描かれた見事な絵だった。それは、野菜づくし、魚づくしというにふさわしいものだった。食卓は大変大きな小判型をしていて、子供の私には板の継ぎ目がないように思えた。応接間との仕切りになっている壁には暖炉があって、両方の部屋から使えるようになっていた。
 3階は天井裏を利用したもので、使用人の寝室兼居室、倉庫(書画・骨董、その他美術品。書籍類)になっていたというが、あの当時は子供は立入禁止だった。
 洋館には、その東に続いて建てられた瓦葺きの平屋建(現望月邸の一部)があって西側の庭に面した和室がいくつかあり、日常の生活はここでされており、「お上」の書斎以外の洋室は、特別な時以外はお使いにならなかったように覚えている。洋館に行くのは、和風の建物の玄関の近くから地下室に行くように、コンクリートの階段を何段か下ったり上ったりして、洋館のホールに出るようになっていた。コンクリートの廊下には木製のスノコが敷いてあるのだが、コンクリートの面にぴったりしていないため歩く度にカターン、カターンと鳴る音が、地下廊下さながらの暗闇に反響し、曲がり角には黒ずんだ仏像が立っていてこっちを見ているという訳で、子供には何ともオッカナイ所だった。
 戦後、進駐軍の接収するところとなり、庭内に小熊を飼い、毎日、拳闘練習具を仰く音が騒々しくて、時には楽団演奏の音もあったが、接収解除後は杉木立は伐採され庭木も杉一本残してみな伐られて、暫時、岩手県庁の書類倉庫として使用されていた。(石井邸100年記念誌—瀬川経郎氏の証言を編集、渡辺敏男)


*「在りし日の石井県令邸」は、資料室に展示しております。


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by kenreitei | 2011-11-01 01:21
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旧石井県令邸とは?現在の県知事にあたる、第二代石井省一郎県令の私邸の洋館として、明治18~19年に建設されました。盛岡で最も古い本格的な煉瓦造の洋館で、全国的に見ても最初期のものです。


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